CASE STUDY 59
PLACE

愛知

OVERVIEW

技術

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膳処空間「鈴波」に寄り添う、メタルのしごと

― 地下街の喧騒に、静けさを添えるために ―

名古屋・栄の地下街。 多くの人が行き交い、にぎわいに満ちたこの場所に、ふと足を止めたくなるような、静かな佇まいのお店があります。 それが、和食の老舗「鈴波」がこのたびリニューアルを行った店舗です。 鈴波は、長年にわたり和食と漬物で親しまれてきた存在。 その店舗づくりは、料理の味わいに加え、所作や空気感までも含めて「和」として丁寧に形づくられてきました。 今回のリニューアルでは、そうした鈴波らしさを大切にしながら、現代的な地下街の環境にふさわしい新しい和の空間が求められました。 その空間づくりの一端を、私たちアイチ金属がそっとお手伝いさせていただきました。

「現代の和」を形にするという設計チームの挑戦

設計を担当されたのは、吉村靖孝建築設計事務所とナノメートルアーキテクチャー。 おふたりが目指されたのは、伝統を尊重しながらも、現代の都市空間に調和する「和」のあり方です。 人の流れが多く、空調や湿度変化の大きい地下街という環境では、素材には美しさと同時に、耐久性やメンテナンス性も求められます。 そのような条件の中、私たちにお声がけいただき、「MetalSurface(メタルサーフェス)」という表面処理技術を活かした金属素材をご提案しました。

金属の、もうひとつのやさしい表情を

金属という素材には、「硬質」「冷たさ」といった印象がつきものかもしれません。 しかし、仕上げや加工の工夫によって、金属にもあたたかみややわらかさ、さらには奥行きのある質感を引き出すことができます。 今回求められたのは、和の空気感に馴染む落ち着いた質感、木材の代替となる耐久性と清掃性、そして経年変化を楽しめる素材感。 それに応えるかたちで、私たちは、光沢を抑え、表情豊かに仕上げた真鍮を施した金属素材を採用しました。

「くぐり門」に宿る静けさと奥行き

店舗の入口に設けられた「くぐり門」を模したフレームは、訪れる人の目に自然と留まる印象的な存在です。 その構造には、一見すると木のようにも見える金属素材が使われています。 MetalSurfaceの技術により、金属特有のギラつきを抑え、光の角度や当たり方によって繊細に表情が変化します。 目立ちすぎず、それでいて訪れるたびに新しい印象を与える。 この“静かな変化”が、空間に奥行きと品格をもたらしています。 同様の素材は、壁面やディスプレイ台にも使われ、空間全体にやさしい統一感をもたらしています。 商品や什器の存在を引き立てながら、背景として控えめに機能する――そんな在り方を目指しました。

設計と製作が重なり合うことで生まれたもの

今回のプロジェクトは、設計と製作が密接に連携した点でも印象的でした。 どのような光が差し込み、どんな視点から見られるのか。 設計チームからの丁寧な共有を受けて、私たちもその意図に耳を傾け、図面、試作、加工をひとつひとつ丁寧に進めました。 「金属であることを主張せず、空間に自然と溶け込むこと」―― その言葉を何度もかみしめながら、私たちは素材の持つ可能性を静かに形にしていきました。

金属は、目立たないけれど、たしかにそこにいる

完成した空間に足を踏み入れても、「ここに金属が使われている」と気づく方は少ないかもしれません。 けれど、くぐり門の奥に漂う静けさや、展示台に漂う落ち着いた空気感には、MetalSurfaceの存在が確かに宿っています。 空間を支えながらも、あくまで控えめに。 そうした金属のあり方こそ、私たちが大切にしている姿勢です。

素材の力で、空間の質を高めていくために

私たちアイチ金属は、金属を単なる建材とは捉えていません。 空間の質を高め、そこに集う人の心にやさしく残る存在として、設計者や職人と対話を重ねながら、一つひとつの素材と向き合っています。 今後も、空間に寄り添い、必要なときに静かにその力を発揮する金属素材を届けられるように。 私たちは、日々学び、手を磨き続けていきたいと思っています。